なぜ増えている?海外で働くベトナム人労働者|歴史と経済の背景を解説

海外で働くベトナム人が支える母国経済

近年、海外で働くベトナム人が母国経済に与える影響が大きくなっています。

世界銀行の統計によると、2022年に海外在住のベトナム人から母国への送金額は190億USD(約2.8兆円)に達し、世界でトップ10にランクインしました。

この莫大な送金額は、ベトナム経済を支える重要な柱の一つとなっています。

では、なぜこれほど多くのベトナム人が海外で働くことを選ぶのでしょうか。

その背景には、歴史的要因や経済状況が大きく関係しています。

1.ベトナム戦争と海外就労の歴史的関係

戦後の復興と海外就労の始まり

ベトナムは19世紀末からフランスの植民地支配を受け、その後アメリカの介入によりベトナム戦争が激化しました。

戦争は長期化し、ベトナム国内は荒廃し、経済は壊滅的な打撃を受けました。

特に戦後、食糧や生活必需品の不足が深刻化し、国内の産業がほとんど成長しない状況が続きました。

その結果、農業以外の職がほとんどなく、労働力が過剰に余る状況に陥ったのです。

また、ベトナムは戦争中にソ連や東欧諸国から武器や資金、物資の支援を受けていました。

そのため戦後には、これらの国々への返済義務が生じました。

返済の一環として、ベトナム政府はソ連や東欧諸国に労働者を派遣し、彼らは現地の工場や建設現場で単純労働に従事しました。

海外で働くことで得た収入は、家族へ送金されたり、物資を購入して母国へ送ることで、ベトナム経済の一助となりました。

これが、ベトナム人の海外就労の始まりです。

ベトナム戦争後の移民流出

1975年のベトナム戦争終結後、北ベトナムが南部を統一しましたが、多くの南部出身者は共産主義体制下での生活を嫌い、国外に移住しました。

特に、アメリカやカナダ、オーストラリアなどへ難民として逃れた人々は、新天地での生活を築きながら、母国にいる家族へ送金を行うようになりました。

1975年のアメリカ政府の支援により、約12万5千人のベトナム人がアメリカに移住し、その後も家族や親戚を呼び寄せることで、移住者は増加しました。

2017年時点で、アメリカに住むベトナム人の数は約134万人に達し、アメリカに住む外国人の中で6番目に多い民族となりました。

彼らはアメリカで得た収入をベトナムの家族に仕送りし、さらにはベトナム国内での投資を行い、経済成長に寄与しています。

2.近年の経済的要因と海外就労の拡大

大学卒業者の高い失業率

ベトナムでは教育水準の向上に伴い、大学を卒業する若者が増加しています。

しかし、国内の労働市場では高学歴者向けの職が十分に供給されておらず、多くの大学卒業者が就職難に直面しています。

そのため、海外での就労を選択する若者が増えています。

特に、技術職や専門職での需要がある日本や韓国では、ベトナム人労働者が積極的に受け入れられており、多くの若者が海外でのキャリアを模索しています。

所得格差と雇用の不足

ベトナム国内では経済成長が続いているものの、依然として所得格差が大きく、特に農村部では生活の向上が困難な状況にあります。

都市部と農村部の平均収入の差は顕著で、農村部の労働者にとって、国内で十分な賃金を得ることは容易ではありません。

一方で、日本、韓国、台湾、ドイツなどの国々では、労働力不足が進んでおり、ベトナム人労働者に対する需要が高まっています。

そのため、多くのベトナム人がより高い給与を求めて海外での就労を希望するのです。

3.政府の海外労働者派遣制度の影響

労働派遣の自由化と拡大

ベトナム政府は長年にわたり、労働者の海外派遣を奨励してきました。

もともと政府間の協定に基づき、ベトナム人労働者は特定の国々へ派遣されていましたが、1991年に民間企業がライセンスを取得し、労働者派遣ビジネスが自由化されました。

この結果、より多くのベトナム人が海外で働く機会を得ることができるようになりました。

ベトナムの海外派遣労働者の増加

毎年、ベトナム政府は数万人規模で海外に労働者を送り出しています。

日本、韓国、台湾、中東諸国が主な受け入れ先となっており、特に技能実習生制度やエンジニア向けのプログラムが拡充されています。

多くのベトナム人労働者が、海外での経験を活かして技術を習得し、帰国後に起業したり、より高度な職に就くなど、ベトナム社会に貢献しています。

大学を卒業した若者の失業率の高さ

ベトナムの人口は約9,600万人で、世界第15位の規模を誇ります。

労働人口は約5,500万人に達しており、国全体の失業率は2%と比較的低水準を維持しています。

しかし、15~24歳の若年層の失業率は約7%にのぼり、特に大学を卒業した若者の就職難が深刻な問題となっています。

東南アジアを訪れたことのある人なら、「Grab」という配車アプリを知っているかもしれません。

ベトナムでは「Grabバイク」というバイク版のタクシーサービスも普及しており、多くの大学生や大学卒業者が仕事を見つけられずにバイクドライバーとして生計を立てています。

これは、学歴社会が進行する中で大学卒業者の数が急増し、労働市場がその需要に対応しきれていないことを示しています。

また、ベトナムでは日本のような新卒一括採用の制度がなく、就職活動の方法も限られています。

求人サイトは存在するものの、大学教授の推薦、学校主催のジョブフェア、家族や友人のコネクションを頼るケースが依然として多いのが現状です。

そのため、希望する職に就けない若者も少なくありません。

さらに、ベトナムの企業は即戦力となる経験者を求める傾向が強く、新卒者の研修やトレーニングに十分な投資を行わない企業が多いことも問題の一因です。

このため、企業側が新卒者の採用を避けるケースが多く、新卒者が仕事を見つけにくい状況が続いています。

こうした状況の中で、国内で就職の機会を得られない若者たちは、より良い収入と安定した雇用を求めて海外での就労を目指すようになります。

特に、日本の労働環境や給与水準は彼らにとって魅力的に映り、多くのベトナム人が日本での就労を希望するようになっているのです。

ベトナムと近隣国との所得格差

2023年のベトナムの一人当たりGDPは約4,282 USDであり、近隣のアジア諸国と比較すると依然として低い水準にあります。

具体的に比較すると、日本の一人当たりGDPは33,806 USDでベトナムの約7.8倍、韓国は35,538 USDで約8.3倍、シンガポールは86,616 USDで約20倍、台湾は25,007 USDで約9.8倍、タイは7,182 USDで約1.7倍となっています。

これらのデータからもわかるように、ベトナムの所得水準はアジアの先進国・新興国と比べてまだまだ低い状況にあります。

この所得格差が原因となり、多くのベトナム人がより高い収入を求めて国外での就労を選択しています。

特に、日本や韓国、台湾などの経済的に豊かな国々では、同じ労働をしてもより高い報酬を得ることができるため、海外で働くことに魅力を感じるベトナム人が多いのです。

例えば、日本の新卒者の月給は一般的に18~25万円程度ですが、ベトナムの新卒者の平均月給は約4万円前後です。

ただし、英語や日本語などの外国語スキルを持っている場合は給料が上昇する傾向にあり、日本語能力試験(JLPT)のN2レベルを取得していれば、給料は5万円~10万円程度に上昇することもあります。

それでも、日本での給与水準には到底及ばないため、より良い生活を求めて海外での仕事を探す若者が後を絶ちません。

日本が就労先として人気の理由

このように、ベトナム人が海外で働く主な理由として、ベトナムと近隣国との所得格差大学卒業者の高い失業率 が挙げられます。

2000年代以降、台湾、韓国、マレーシア、日本などへの労働者派遣が活発になり、ベトナム人の働く国や職種は多様化しています。

特に、日本と台湾が派遣先として人気があり、2018年にはベトナムからの海外派遣労働者数は14万2,860人、2019年には15万2,530人と年々増加しています。

派遣先の国別割合では、日本と台湾が全体の約9割を占めていますが、近年では台湾よりも日本への派遣数が増加傾向にあります。

では、なぜ日本がこれほど多くのベトナム人に選ばれているのでしょうか?

次回の記事では、ベトナム人が日本で働くことを選ぶ理由について、より詳しく解説していきます。

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