脱退一時金の仕組みを5分で解説!外国人雇用の初心者が知るべき基礎知識
近年、外国人材の採用が一般化する中で、彼らに安心して働いてもらうためには、給与や業務内容の説明だけでは不十分です。日本の社会保険制度、特に年金制度について、入社時点で丁寧かつ正確に案内することが、誤解や摩擦を未然に防ぎ、信頼関係を築くうえで極めて重要になっています。
たとえば、特定技能1号のように在留期間に上限がある在留資格の場合、最長5年の勤務を経て母国へ帰国する可能性があります。
このとき外国人社員が必ず抱く疑問が、「日本で支払った年金はどうなるのか」という点です。
制度への理解が浅いままでは、「せっかく払ったのに戻らないのでは」「意味がないのでは」といった不安が生まれ、企業への不信感につながることさえあります。
だからこそ、人事・採用担当者が事前に説明しておくべきなのが「脱退一時金(だったいいちじきん)」という仕組みです。
これは、一定の条件を満たして帰国する外国人が、日本で納めた年金保険料の一部を受け取ることができる制度であり、理解しておくことで”損をした”という感覚を大きく軽減できます。
本記事では、この脱退一時金について、人事担当者が押さえておくべき基礎知識、支給要件、計算方法、そして多くの人が誤りやすい「源泉徴収20.42%の還付手続き」まで、実務に直結する情報をわかりやすく解説します。
外国人材との信頼構築に直結する重要なテーマとして、ぜひ最後までご確認ください。
第1章:「脱退一時金」とは何か?

脱退一時金とは、日本国籍を持たない外国人が、国民年金や厚生年金保険に加入し、保険料を一定期間以上納めた後に帰国した場合、納めた保険料の一部が払い戻される制度です。
日本の公的年金制度は、原則として10年以上加入しなければ老齢年金を受け取ることができません。
そのため、数年間の就労を経て母国へ帰る外国人労働者にとっては、納めた保険料が「掛け捨て」になってしまうというリスクがあります。
この不公平感を解消し、短期滞在の外国人にも日本の社会保険制度に納得して加入してもらうための救済措置が、この脱退一時金です。
人事担当者が知っておくべきポイント:日本の社会保険は、要件を満たせば強制加入となります。
そのため、社会保険料の仕組みや将来の受給資格について十分な情報が行き届いていない外国人労働者に誤解や不公平感が生まれないよう、「帰国時には脱退一時金として一定額が受け取れる制度がある」ことを適切に説明できることは、コンプライアンスの遵守と従業員の納得感を両立させるうえで有効な手段となります。
第2章:脱退一時金を受け取るための4つの条件

脱退一時金は、外国人が帰国すれば自動的に振り込まれるものではありません。
以下の4つの条件をすべて満たした上で、原則として「日本を出国してから2年以内」に請求手続きを行う必要があります。
- 日本国籍を有していないこと
二重国籍の方などで日本国籍を持っている場合は対象外です。 - 公的年金制度(厚生年金保険または国民年金)の加入期間が6ヶ月以上あること
加入期間が半年未満での短期退職・帰国の場合は支給されません。 - 日本国内に住所を有していないこと
帰国(出国)し、住民票の転出届が出されている状態である必要があります。再入国許可を得て一時帰国している場合などは、まだ「住所がある」とみなされることがあります。 - 年金を受ける権利(障害年金などを含む)を有したことがないこと
すでに日本の老齢年金の受給資格期間(10年)を満たしている場合などは、将来年金として受け取る権利があるため、一時金としては受け取れません。
第3章:いくら戻ってくるのか?計算方法と制度改正
人事担当者として最も聞かれる質問の一つが「結局、いくら戻ってくるのですか?」という点です。
支給額の計算式(厚生年金の場合)
支給額は、以下の計算式で算出されます。
支給額 = 被保険者であった期間の平均標準報酬額 × 支給率
■ ① 平均標準報酬額
平均標準報酬額とは、被保険者期間における標準報酬月額・標準賞与額を基に算出される「実質的な平均給与額」です。
年金機構では、次のA+Bの合計額を、加入期間(総月数)で割った値と定義しています。
- A:2003年(平成15年)4月より前の加入期間
該当期間の標準報酬月額 × 1.3 - B:2003年(平成15年)4月以後の加入期間
標準報酬月額および標準賞与額の合算額
■ ② 支給率
支給率は、加入期間(月数)と各年度の保険料率の2つを基に決定されます。
年金機構の定義では、最終月(資格喪失月の前月)が属する年の前年10月の保険料率 × 1/2 ×(加入期間に応じた計算係数)によって求められます。
計算過程のどこか一つが変わるだけで支給額は大きく変動します。
特に、標準報酬月額(≠実際の給与額)を用いる点や、保険料率が年ごとに異なる点は、外国人労働者が誤解しやすい部分でもあります。
必要に応じて、支給要件と計算ロジックをセットで説明することで、「どの程度戻ってくるのか」「なぜこの金額になるのか」という疑問に論理的に答えられ、外国人従業員の納得感を高めるうえで極めて有効です。
2021年(令和3年)4月の重要な法改正
以前は、脱退一時金の計算対象となる加入期間の上限は「3年(36ヶ月)」でした。
つまり、5年働いても10年働いても、3年分までしか計算されず、長期就労者にとっては不満の残る仕組みでした。
しかし、2021年4月の改正により、この上限が「5年(60ヶ月)」に引き上げられました。
- 改正前:最大3年分まで
- 改正後:最大5年分まで
この変更は、特定技能1号(在留期間上限5年)や、技術・人文知識・国際業務などのビザで中長期的に働く外国人社員にとって非常に大きなメリットです。
5年勤務して帰国する場合、以前よりも大幅に受取額が増えることになります。

出典:日本年金機構『基準月の所属年度ごとの国民年金脱退一時金支給額』
説明時の注意点: 正確な金額を算出するのは複雑ですので、面談等では「だいたいこれくらい」という概算を伝えるか、日本年金機構のサイトにある具体例を参照するよう促すのが無難です。「必ずこれだけもらえる」と断定することは避けましょう。
第4章:見落とされがちな「20.42%の源泉徴収」と税金の還付手続き

脱退一時金に関する手続きは、実際には2段階構成です。
しかし多くの外国人労働者は「脱退一時金の受給=完了」と誤解し、戻ってくるはずの税金を受け取らずに終わっています。
人事担当者としては、この仕組みを正しく伝えることで、帰国後の手取り額に対する不公平感を大幅に軽減できます。
第1段階:脱退一時金の受給
脱退一時金を請求すると、日本年金機構から海外口座へ支給額が送金されます。
ここで注意すべきは、支給額がそのまま振り込まれるわけではないという点です。
● 厚生年金の脱退一時金
年金機構のルールにより、厚生年金の脱退一時金には20.42%の所得税(復興特別所得税を含む)が源泉徴収されます。
例:支給決定額 50万円
- 源泉徴収額:約10万2,100円
- 振込額(手取り):約39万7,900円
差し引かれた約10万円は「未手続きなら戻らない金額」です。
● 国民年金の脱退一時金
国民年金(老齢基礎年金)については源泉徴収はありません。
そのため、国民年金分は支給額=振込額となり、還付手続きも存在しません。
第2段階:退職所得の選択課税による還付請求
厚生年金で源泉徴収された20.42%の税金は、「退職所得の選択課税による還付のための申告書」を税務署に提出することで、全額または大部分が還付されます。
ただし、大きな問題があります。帰国後は本人が日本国内の税務署に行けないため、単独では申告できないという点です。
還付には「納税管理人」が必須
年金機構は、還付手続きのために次の点を明確に示しています。
- 申告書の提出先は、帰国前に日本で住んでいた住所を管轄する税務署
- 還付申告や還付金の受領のために、事前に「所得税・消費税の納税管理人の届出書」を提出する必要がある
- 納税管理人は「日本に住所がある人」であれば、家族・友人・勤務先担当者など誰でも可
- 帰国前に届出を出していない場合は、申告書と同時に提出すれば手続き可
第5章:企業がサポートすべき具体的な手続きフロー
ここからは、時系列に沿って企業(人事)と本人が行うべきアクションを整理します。
【STEP 1】退職・帰国前(在職中)
帰国してからでは手配が難しい書類もあるため、退職が決まった段階でアナウンスを行います。
- 制度の説明
「脱退一時金」という制度があること、そして「税金の還付」まで含めて手続きが必要であることを説明します。 - 納税管理人の選任(※最重要)
税金の還付請求を行うためには、日本国内に住む人を「納税管理人」として税務署に届け出る必要があります。
- 誰がなれるか?:友人、知人、元同僚、あるいは企業の担当者でも可能です。最近では、税理士法人や行政書士などが代行サービスを行っているケースもあります。
- 企業側のスタンス:会社が納税管理人を引き受ける義務はありませんが、福利厚生の一環として引き受けるケースや、専門の代行業者を紹介するケースが増えています。
- 提出書類:「所得税・消費税の納税管理人の届出書」を、本人が出国する前に管轄の税務署へ提出します。
- 転出届の提出
市役所で住民票の転出届を提出します(出国予定日の約14日前から可能)。これが受理されていないと「日本に住所がある」とみなされ、請求が通らない可能性があります。
【STEP 2】帰国後(本人による手続き)
ここからは元従業員本人の作業です。
- 脱退一時金の請求
「脱退一時金請求書」に必要事項を記入し、以下の書類を添付して日本年金機構へ郵送します(電子申請も一部可能ですが、海外からは郵送が一般的です)。- パスポートの写し(氏名、生年月日、国籍、署名、在留資格、出国日が確認できるページ)
- 日本国内に住所を有しないことを証明する書類(住民票の除票など ※帰国前に転出届を出していれば不要な場合が多いですが、念のため確認推奨)
- 受取先銀行口座の証明書類
- 基礎年金番号通知書または年金手帳
- 入金の確認
請求から通常3〜6ヶ月程度で、指定口座に入金があります。同時に「脱退一時金支給決定通知書」が送られてきます。
【重要】 この通知書の原本は、次の税金還付手続きで必ず必要になります。「捨てずに、納税管理人に郵送してください」と事前に強く伝えておく必要があります。
【STEP 3】税金の還付(納税管理人による手続き)
本人が納税管理人に「脱退一時金支給決定通知書(原本)」を郵送した後に行う手続きです。
- 確定申告書の作成・提出
納税管理人が、自身の住所地(または本人の元納税地)を管轄する税務署へ行き、確定申告を行います。- 必要書類:脱退一時金支給決定通知書(原本)、確定申告書、納税管理人の本人確認書類など。
- 還付金の受領
手続きから約1〜2ヶ月後、納税管理人の指定口座に還付金(源泉徴収されていた20.42%分)が振り込まれます。 - 本人への送金
納税管理人は、受け取った還付金を海外にいる本人へ送金します。※この際、海外送金手数料をどちらが負担するかなどは、事前に話し合っておくべきです。
第6章:人事担当者へのアドバイス・注意点
1. 会社がどこまでサポートするか決めておく
脱退一時金は「個人の権利」であり、会社が手続き義務を負うものではありません。
しかし、全く支援しないまま送り出すと、「日本は保険料だけ取られて何も返ってこない」という誤解を残したまま帰国させるリスクがあります。
一方で、会社が納税管理人になると、確定申告の手間や、海外送金の手間が発生します。
「マニュアルを渡すだけにする」のか、「代行業者を紹介する」のか、「会社が納税管理人になる」のか、方針を明確にしておきましょう。
2. 「年金手帳(基礎年金番号)」の管理
外国籍従業員の退職時には、年金手帳を返し忘れたり、本人が紛失していたりするケースが珍しくありません。
脱退一時金の申請には基礎年金番号が必須であり、番号を確認できなければ手続きそのものができなくなります。
退職時の返却確認をチェックリスト化し、必ず履歴が残る形で運用しましょう。
3. 受取口座の制約に注意する(特にゆうちょ銀行)
海外からの送金を受け取れない、あるいは支店情報の追加提出が必要など、金融機関ごとに制約があります。
特にゆうちょ銀行は受取口座として指定できない場合があるため注意が必要です。
日本年金機構が提示している「受取可能な金融機関」の案内を参照し、従業員が保有する海外口座が対応しているか事前に確認を促すと、トラブル防止に繋がります。
4. 再来日の可能性がある場合
将来、再び日本に戻って働く可能性がある場合、脱退一時金を受け取ると、それまでの年金加入期間が「リセット」されます。
将来的に永住権を取りたい、あるいは合計10年以上働いて日本の老齢年金を受け取りたいと考えている場合は、あえて脱退一時金を受け取らず、加入記録を残しておくという選択肢もあります。
このメリット・デメリットも併せて伝えるのがプロの人事です。
まとめ

脱退一時金は、外国人労働者にとって帰国後の生活基盤を支える重要な資金であり、単なる「手当」ではなく、正当に受け取るべき自分のお金です。
企業がこの制度を正確に理解し、入社時の不安解消や退職時の実務支援として適切に活用できれば、それは事務対応の範囲を大きく超え、企業価値そのものを高める施策になります。
「日本で働いてよかった」「最後まで誠実に対応してくれた」と感じてもらえる経験は、再雇用の可能性や知人の紹介といった形で確実に企業へ還元されます。外国人材の信頼は、将来の採用力そのものです。
本記事をきっかけに、社内の説明資料や退職時のチェックフローをあらためて整備し、外国人材が安心して働ける環境づくりを一段引き上げてください。
※本記事は執筆時点の法令に基づいています。個別具体的な税務判断や手続きについては、税理士や社会保険労務士、最寄りの税務署・年金事務所にご確認ください。
【本記事の出典・参照データ一覧】
日本年金機構:脱退一時金制度
日本年金機構:脱退一時金を請求する方の手続き
厚生労働省:脱退一時金について
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